サステナビリティ・レストラン#4一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会 代表理事 下田屋毅

レストランから次の当たり前をつくってゆく

地球と人類のサステナビリティについて考えたとき、大きな割合を占める項目のひとつに「食」がある。地球環境や人権に配慮しながら食糧を採取・生産し続けるためには、生産者や消費者、小売店やレストランなどフードビジネス全体で行動していかなければならないと気づき始めた人々が世界各地で取り組みを始めている。その一つが、食のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」でサステナブル・レストラン賞の評価を行う英国のSustainable Restaurant Association(SRA)だ。もちろん、日本のフードビジネス業界も例外ではない。SRAと連携する日本サステイナブル・レストラン協会をはじめ、多くのレストランがサステナブルであるための指標(FOOD MADE GOOD スタンダード)やサステナビリティを実践するレストランへの表彰(FOOD MADE GOOD Japan Awards)に参加・協力している。食、フードビジネス、レストランのサステナビリティをどのように考え行動しているのか。最先端でリードする人々にはそれぞれのストーリーがあった。 ※今回は、「食のキャピトル、サステナブル〜未来へつなぐ一皿を〜」後編をお届けします。
CULTURE

CSR元年と呼ばれた2003年以降、大企業を中心に多くの企業が取り組みを進めてきた。しかしSRAとの出会いを通じて、生活者に近いところから意識と行動を変えていかなければ、サステナビリティは実現できないという本質的な課題に気づかされた。そのとき、現場での実践を後押しする共通言語と道筋がなければ、行動変容は広がらないとも感じた。

「サステナビリティは概念が広く、企業にとっても正しく理解するのが難しい。特に飲食業界は他業界に比べて対応が遅れており、当時の飲食店では消費者からの要望も乏しく、取り組みを進める機運も高まっていませんでした。加えて、何をどのように進めればよいのかを示す基準も十分に整っておらず、具体的な行動に移しづらい状況でした。一方、英国のSRAには、調達・社会・環境を包括的に捉えるフレームワークがある。これを日本の飲食業界にサステナビリティの視点を根づかせるための世界的な基準として活用できると考え、日本での展開を決めました」

2018年、下田屋氏を中心としたメンバーにより、日本サステイナブル・レストラン協会が設立され、コロナ禍を経て現在ではSRAは世界72カ国まで広がっている。日本でも60店舗にまでメンバーが増えてきた。

「設立当初は飲食業界とのつながりもなく手探り状態でした。しかし、サステナビリティの関連のネットワークはあったので、その伝手を通じて紹介していただくことから始めました。徐々に動きはじめたのは、2019年に三菱地所のサステナビリティ担当の方に丸の内シェフズクラブを紹介されたところからです。

そこでPIZZERIA GTALIA DA FlLIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ)(2023〜2024年のFOOD MADE GOOD Japan Awards「大賞」受賞店舗)の岩澤シェフとつながることができ、本当にサステナビリティに関心があるお店やシェフが集まり始めました。レストランのオーナーに草の根で声をかけたことで、少しずつ広がっていきました」

その後、コロナ禍にも直面し厳しい時期が続くが、「いま、サステナビリティに関心がある飲食店・レストランとつながって、日本において思いを同じくする料理人・シェフと一緒にサステナビリティのムーブメントを起こしていく」という下田屋氏の姿勢は静かに共感を広げていく。一方で、伝える先の消費者の意識の壁が立ちはだかる。

「欧州に比べると、日本の消費者のサステナビリティへの関心は高いとはいえません。だからこそレストランが『ハブ』になり、生産者やサプライヤーの取り組みを消費者に届けることが大切になります。その上で、生産者の価値を尊重する関係づくりも進めなければいけない。簡単ではありませんが、価値を理解し、それに見合う対価を支払う文化が広がれば、持続可能な供給が育っていくはずです。ただし、それを消費者に理解していただかなければ、ビジネスとして成立しません。

自然農法や自然栽培など、より環境負荷の少ない農産物は、現時点では希少なため価格が高くなりがちです。だからこそ、料理としての美味しさとともに生産者やサプライヤーの取り組みの価値を伝えることが重要になります。その役割を担えるのが、生産と消費の間に立つ飲食店、レストランです。

無農薬・無化学肥料など、環境負荷の少ない栽培方法に取り組む生産者とつながりながら、適正なコストで調達し、美味しい料理を提供する。さらに、シェフやホールスタッフが食材の意味や取り組みをお客さまに丁寧に伝える。そのストーリーに共感し、美味しさにも感動したお客さまが繰り返し訪れるようになる。この循環を可能な限り広げていくことが重要なのです」

SRAの活動は官民を巻き込み、より活動の幅を広げてゆく

「消費者へのアプローチは、SRAジャパンという一組織だけで動きをつくるのが難しかったため、2023年に農水省傘下で『消費者アプローチ勉強会』を立ち上げました。さらに2025年には、その後継として『サステイナブル・レストラン推進ワーキングチーム』を立ち上げ、消費者がサステナビリティを切り口にレストランを選ぶ仕組みや方法を、約1年かけて検討しました。

その活動の一環として報告書をまとめ、必要な取り組みを三点に整理しました。第一に、シェフがサステナビリティを理解するための指針づくり。第二に、サステナビリティを推進するレストランの情報の可視化。第三に、サステナビリティに配慮した食事を体験できる場の提供です。

第一の取り組みとして、SRAジャパンに関わるシェフにも参画いただき、日本独自の『持続可能な食の未来へ 日本の料理人・シェフのサステナビリティ・マニフェスト 2030年へ向けた一七の指針(シェフズ・サステナビリティ・マニフェスト)』を策定しました。日本が大切にしてきた価値観である伝統的な食文化の継承と自然との共生を明確にし、食のサステナビリティの全体像をわかりやすい言葉で、料理人・シェフにご理解いただくためのマニフェストです」

SRAジャパンの取り組みを発信する場の一つが「FOOD MADE GOOD Japan Awards」だ。このアワードは、外食産業における優れたサステナビリティの実践を、皆で祝福し労う場でもある。

評価は、世界的な基準であるFOOD MADE GOODスタンダードに基づいてスコアリングされ、推進度に応じて星が授与される。さらに本アワードでは、星付きレストランの中から、調達・社会・環境の観点で優れた取り組みを行う店舗や、それらを包括的に実践している「大賞」を表彰する。

FOOD MADE GOODスタンダードの実施は、環境面のサステナビリティ推進にとどまらず、地域コミュニティの支援も含まれ、その結果としてファン形成や集客に寄与する好循環を生み出す。

「最終的に目指すのは、ネイチャーポジティブにつながる調達行動を含むサステナビリティ・リジェネラティブな行動の主流化です。生産者から始まり、流通、厨房、客席、そして店舗をとりまく地域を結ぶ『つながり』の総量を増やし、全体のサステナビリティの質を底上げしていくこと。このサイクルが実現すれば、土地や自然の豊かさが保たれ、生産者が豊かになる。環境にも健康にも良い食材が供給されることで、料理が美味しくなり、人々は健康になり、レストランも繁盛する。地域にも還元される。経済価値を含めた循環をつくることができれば、サステナビリティ・リジェネラティブやネイチャーポジティブを実現できるのです。もちろん、気候変動による調達不安や原材料高騰、エネルギー、人手不足、技術継承など課題は山積し、簡単ではありません。それでも、飲食店・レストランの皆さんと着実に前進を続けたい」

地道にまっすぐに進む。正しい行動が共感を呼び、思いのある仲間を増やしていく。

「社会と日々向き合う現場がレストランです。ここから次の当たり前を生み出していきます。SRAジャパンは、その実践と対話を推進する組織として支え続けます」

下田屋氏とSRAジャパンのサステナブルジャーニーはまだ始まったばかりだ。

下田屋毅

日本と欧州とのサステナビリティの懸け橋となるべく Sustainavision Ltd. を2010年英国に設立。ロンドンに拠点を置き、日本企業にCSR/サステナビリティに関する研修、関連リサーチを実施。2012年より「英国 CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習」を日本にて定期開催。2018年一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会を英国SRAとの連携により日本に設立。

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