アップサイクルでゆこうNUNOUS

色へのこだわりが生んだ
廃棄を減らし想いをつなぐ新素材

「世界で2番目に環境を汚染している産業」。国連貿易開発会議(UNCTAD)が、ファッション業界をそう評したのは2019年のこと。以来、世界各国で衣服や繊維の大量廃棄が問題視されるようになった。売れ残って捨てられるというわかりやすい部分だけでなく、染色や紡績、裁断など、服の製造工程の至るところで廃棄は発生する。そんな工程の一つ、布の染色を行うセイショク(岡山・倉敷市)が2018年に社会のニーズに先駆けて開発した新素材「NUNOUS(ニューノス)」は、今、生地の廃棄を減らすだけでなく、想いや歴史が詰まった布に新たな価値と用途を与えるアップサイクルとして、世界で注目されている。
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手触りは柔らかく、しかし持ち上げてみると硬く少し重い。いくつもの色が折り重なる複雑な色合いは、まさに唯一無二のもの。布とも板とも異なる素材ニューノスは、インテリア小物や文具、建物や自動車の内装材など幅広い用途に用いることができる。

開発したセイショクは、1880(明治13)年創業、現在も岡山県で染色加工事業を行う老舗企業だ。きっかけは、日々の事業の中で発生する出荷規格外品だった。

毎日、50kmにもおよぶ大量の布を染色する中では、どうしても失敗して売り物にならない品がでてしまう。割合にすれば1〜2%に過ぎないとはいえ、わずかな傷や色ムラがある以外は美しく染め上げられた立派な布を、捨ててしまうのは惜しい。そう考えるのは、精魂込めて製品づくりに打ち込む企業としてごく自然なことだった。

同時に、廃棄物として処分することで生じる環境負荷や資源損失を防ぎたいという思いもあり、セイショクは「色を活かせるリサイクル方法」を模索し始める。そして岡山県工業技術センター協力のもと、何百枚もの生地の間に樹脂フィルムを挟み込み、熱と圧力で押し潰して板のようにする積層技術を開発した。当時のことを社長の姫井氏は次のように語る。

「私たちは染色事業者として、やはり色にこだわって製品をつくっています。ですので、繊維を砕いて混ぜてリサイクルするやり方には、やるせない思いがありました。せっかくの綺麗な色を活かせる方法はないかと模索して、岡山県の工業技術センターで相談したところ、 『固めてパレットのようにすれば良い』とアドバイスをいただいたんです」

布を重ねて生み出すニューノスの色は、波や地層、あるいは木目を連想させる独特の模様をつくりだす。これは布を一枚一枚積み重ねた際の歪みから生まれるもので、その歪みはあくまで偶然の産物であり、同じ柄・色を狙ってつくることはできない。この見た目の美しさ・ユニークさは、世界中のデザイナーやメーカーから高い評価を得ている。

また、樹脂フィルムには非可食のサトウキビを原料とするバイオポリマーを主に使用することで、環境負荷低減を図った。バイオポリマーの割合を高める改善は継続的に行っており、2025年時点では約91%となっている。

セイショク株式会社 代表取締役 姫井明氏

お客さまのストーリーを形に残し、次へつなぐ

ニューノスは綿、麻、ウールなど多様な生地からつくることができる。ある企業ではその特性を活かして、古くなった作業着のアップサイクルとしてニューノスを製造。それを自社オフィスの内装に取り入れた。もともとは、セイショクの現場で発生する廃棄物を減らすために開発されたニューノスだが、近年増えているのは『お客さまの現場で発生した廃棄物の布を原材料としてニューノスをつくり、そこからまた現場で使えるアイテムを製造する』という使い方だ。廃棄物を減らしたいと思っているのは、セイショクだけではない。同じ思いを持ちながらも、どうすれば良いのかわからずにいた多くの企業にとって、ニューノスはうってつけの解決策になり得た。

「お客さまとしても知らないものを買うよりは、自分たちが長年使ってきた愛着のあるものを原材料として提供し、それが綺麗なもの、面白いものになって返ってくる方が嬉しいわけです。とはいえ実際につくるとなると、制服や作業着や舞台の緞帳などいろいろな形のものをお預かりするので、手間は尋常でなくかかります。ですが、できあがったものには確実にお客さまのストーリーが込められる。付加価値は格段に高くなります」と、姫井氏はいう。

ニューノスは大きな建材から小物まで様々な形に加工できる。神奈川県の高等学校では、制服のリニューアルに合わせて、校歌の歌詞を印刷した大きなパネルを製造した。原材料としたのは古い制服だ。小さなアイテムの例としては、競輪選手のユニフォームを原材料にしたコースターや、空港職員の制服からつくったキーホルダーなどもある。

廃棄するしかなかったものを形を変えてお客さまのもとに残し、また新たな使い方で時間をつむいでいく。そうしてお客さまのストーリーを次のステージへとつないでいく力がニューノスにはある。

空港職員の生地を用いたニューノス試作品を製作中。

制服を解体し、ニューノスの型にはまる形に切り分ける。

1枚1枚、布を積み重ねる。この時のわずかなズレ・歪みが唯一無二の模様を生み出す。

カラフルな生地を重ねてつくるニューノス。

工場内に保管しているサンプル。さまざまな色・手触りが揃っている。

世界展開の鍵は「地産地消」

岡山から日本全国へ、そして世界へ。ニューノスをさらに多くの方々に届けようとするとき、廃棄物とはまた別の課題が発生する。「輸送」で発生する環境負荷だ。特に海外展開する際は、環境意識の高まりもありほぼ確実に問題視される。どれほど「環境に良いもの」をつくっても、何万・何千kmも離れた場所へ大量の温室効果ガスを排出しながら運んだのでは、「環境に悪いもの」になってしまうのだ。

ニューノスはセイショクが特許を持つ独自の技術でつくられる。ほかではつくれないので、試作のための素材は遠く海外から送られてくるが、製品化や大量生産の段階になると輸送の環境負荷も増大するため、岡山の工場ですべてを対応するのは難しい。設備や規模の問題も出てくる。

「フランスやイタリアでも展示会に出ているので、海外のメーカーやデザイナーからのご相談もいただいています。 その中に、インド資本の自動車部品メーカーであるマザーサン・グループから車の内装材に使いたいというお話があったのですが、現地で廃棄される布を使ってニューノスをつくろうといわれました。実は、フランスの自動車メーカー大手と話したときにも、同じような要望があったんです。それで、しっかりしたものづくりができる企業と組んで、現地生産を進めていくことが必要だと思うようになりました」

いわば、地産地消によるニューノスの製造。それができれば、輸送時の環境負荷は最小限に抑えられるうえ、現地の廃棄物削減にも貢献できる。姫井氏はこの方法での展開の先に、ニューノスの未来を描いている。

「自分たちで全部やるというのではなく、世界各地の信頼できる企業と手を組んで、それぞれの大陸に一つずつくらいニューノスを製造できる拠点をつくっていく、もちろん現地で廃棄される布を使ってです。そういう地域に根ざしたものになっていくといいと、今は考えています」

技術提携による世界展開には、ほかにもメリットがある。手を組む企業が持つ技術を活かして、ニューノスの用途・可能性を広げることができるのだ。

これまでニューノスを建材として使う際に課題になっていたのが、防火・耐火性能だった。自動車の内装材としても必須条件なのだが、マザーサン・グループは自社の技術力を活かしてこの課題をクリアする見通しを立て、技術提携や二社での世界特許取得を提案してきた。

「海外の企業は新しいもの、他社が使っていないものを使おうという意識が強い。自分たちでどんどん検証を進め、実用化していきます。先行事例や実績を重視する日本企業とは価値観が違うと感じました。今は、マザーサン・グループが迅速に動いて説得力のあるデータや製品を出してくれたので、それに続く形で日本の自動車メーカーでもニューノスを使おうという動きが広がっています」と姫井氏。

セイショクは2025年1月、東京・赤坂にNUNOUS東京支店(ミニショールーム)を開設。首都圏に拠点を置く企業と積極的に取引していく体制を整えた。海外で、日本全国で、ニューノスの新たな可能性と展開が広がっている。

ニューノスのこけし。塊から削り出してつくる。両手に収まるミニマムサイズで、他の製品をつくった端材からも削り出せる。

こけしと同じく、塊から削り出してつくるりんご

壁に取り付ける案内板。表札や店舗名・ブランド名などいろいろな形で活用できる。

次世代とともに取り組む、一歩進んだアップサイクル

ニューノスは遠く海外へ届くとともに、地元・岡山でもさらなる可能性・展開を見せている。2025年、地元の中学生とのコラボレーションから生まれたニューノスのペンケースやサコッシュが、岡山駅のショップや、東京・大阪の大型チェーン店で販売された。

「岡山で生まれた良いものが、人々に知られないままではもったいない」「ニューノスの知名度を上げたい」という中学生の想いから立ち上がったプロジェクトは、革製品専門店に縫製を依頼し、クラウドファンディングで費用を集めるなど、たくさんの人を巻き込む結果となった。

このプロジェクトがユニークなのは、あえてニューノスのデッドストック(過去に試作としてつくり、現在は使い道がないもの)を用いた点だ。廃棄物を原材料とするのがアップサイクルだが、最近ではそのアップサイクル製品を使い終わったときにどうするのかまで考えることも、重視され始めている。また、アップサイクルの工程で大量の廃棄物を出したり、在庫が大量に余ったりする状況になってしまっては、やはり環境負荷は減らない。アップサイクルやリサイクルが一般的になったことで、一歩先へと踏み込んだ意識・対策が求められるようになったのだ。デッドストックの活用は、その対策の一つになる。ニューノスは製造時に出る大きな端材を集めて再びニューノスの材料にするほか、コケシやバランスタワーといった小さい塊を利用した製品をつくることで、製造工程での廃棄を抑えている。それでも出てしまう小さな欠片やおが屑は、産業用固形燃料として活用し、できる限り廃棄物が出ないよう工夫している。

「コラボレーションを提案した中学生というのはうちの娘なんですが、この取り組みをきっかけに経済産業省もニューノスに興味を持ってくれて、庁舎の照明器具に採用してもらえました。ニューノスの独特の手触りや風合いを伝えるには、やはり触れていただくのが一番。東京支店をはじめ、国内でも海外でも様々なところで手に取っていただける機会が増えていると実感しているので、これからさらに多くのお客さまや取引先にニューノスを知ってもらい、また新たな使い方を一緒に考えていけたらと期待しています」と姫井氏はいう。

老舗染色企業の色へのこだわりから生まれたニューノスは、世界各地の企業や次世代を担う若者たちとともにアップサイクルの一歩先の未来へと進んでいく。

端材を組み合わせたバランスタワー。カラフルなインテリアになるとともに、廃棄物削減にも貢献できる。

ニューノスのサンプル展示。原材料の布の色・柄・厚さ等によって様々な色味になる。

セイショク株式会社

岡山県岡山市北区中井町2丁目8-7
NUNOUS
https://nunous.jp/

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